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日本で家庭を作った、ある韓国人プロゲーマーの話

2018/11/13, 15:00 - BY RIOT GAMES

LJL

日本で家庭を作った、ある韓国人プロゲーマーの話

 どの試合だったかは覚えていないけれど、その光景は強く記憶に残っている。

 LJLの試合が終わってファンミーティングに出てきたTussleさんが、小柄な女性から赤ちゃんを抱きとってあやしていた。

 親戚の子かな? くらいにしかその時は考えなかったけれど、それまで見たことがないTussleさんのやわらかい表情が気になっていた。あんな顔するんだなぁ、と思ったのを覚えている。

 しばらく後になってその2人がTussleさんの妻の愛希さんと1人息子の希龍くんだったことを知った時は、驚くと同時に納得もした。

 Tussleさんは韓国からLJLにやって来た最初の選手の1人で、日本のレベルを劇的に引き上げた選手だ。大袈裟でなく、LJLのすべてのチームが「Tussleと渡り合えるかどうか」を獲得の基準にしているように見える時期もあった。

 前所属チームRAMPAGEでLJLを3度制し、2018年に移籍したUnsold Stuff Gaming(USG)でもチームに初のシーズン決勝戦進出をもたらした。チームメイトは彼のことを「リーダー」だと言う。

 そんなスーパーマンのようなTussleさんだが、考えてみれば日本に来たときはまだ20歳。慣れない国で、言葉が通じる相手もほとんどいない日々は簡単ではなかったはずだ。その中で彼がどう生活し、何を考え、どうやって生涯の伴侶と出会い、どんな風にいま子供と向き合っているのか。

 そんな話をきくために、妻の両親と同居する家の近くの喫茶店で時間をとってもらった。

出会いは2年前のファイナル

――まず、Tussleさんと愛希さんの出会いから教えてもらえますか。

Tussle「最初は2016年のLJLファイナルでした。会場が品川プリンスの時ですね。試合が終わった後に応援してくれた人たちが待っていて、少し立ち止まって話す時間があったんですけど、その中に愛希さんがいたのが出会いでした」

愛希「私は韓国に留学してたことがあって韓国語が話せたので、自然に韓国人選手と話す流れでTussleさんともお話しましたね」

Tussle「そのあとイースク(e-sports SQUARE)のイベントでもまた会ったんだよね」

愛希「そのときは私の友達もいて和気あいあいと楽しく話せて、一気に仲良くなりました」
――今からだいたい2年前ですね。ということは結構そこからは急展開でしたか?

愛希「そうですね(笑)。8月にファイナルで初めて会って、9月にイベントで仲良くなって、そこからは友達も一緒に4人ぐらいのグループで一緒にゲームしたり、ディズニーランドへ行ったりして、どんどん仲が深まっていきましたね」

Tussle「一緒にいるのがとても楽しくて、それで10月の最初に僕から『付きあってください』って言いました」

プロゲーマー引退を考えていたことも

――日本に来るときに、日本人の女性とお付きあいしたり結婚したり、っていう可能性は意識したことありました?

Tussle「さすがに、それはまったく考えてませんでしたね。実は2016年シーズンが終わった時点で、日本でプロゲーマーをするのは終わりにしようと思っていました。でも韓国へ帰国する少し前に愛希さんと付きあうことになって、応援してくれたファンのことも心に残っていたので、もう少し続けてみようという風にだんだん傾いていきました」

――引退を考えていたのは初耳でした。選手を続けてよかったですか?

Tussle「やめたらチャンスを逃すかもしれないと思ったし、自分はもっとうまくなれるはずだと思ったんですよね。今考えても、あの時やめなくて本当によかったです(笑)」

――本当に、続けてもらえてよかったです。そして2人は10月に付きあい始めて、そこからはどんな感じだったんでしょう。

愛希「付きあいはじめてすぐにTussle選手が韓国へ一度戻ることになっていたので、私もその間に何度か韓国へ行って、かなり長い時間一緒に過ごしていたんですよね。その中で、結婚のことは早くから意識していました。その時に韓国で流行っていた芸能人が子育てする姿に密着したテレビ番組を見て、子供のことも考え始めました。それで妊娠がわかったのが3月で、生まれたのは去年の10月です」

――ということは結婚はいつ頃に?

愛希「実は私が夏に早産の可能性があるということで入院して、お医者さんに『いつ生まれてもおかしくないので、早く結婚した方がいい』と勧められました。国際結婚なので手続きは大変だったんですけど、領事館や市役所へ何度も通って、9月に結婚しました」
――かなり慌ただしいです。

愛希「なので、ロマンチックなプロポーズみたいなのはなくて。それはちょっと寂しいです(笑)」

――でも結果的には、希龍くんも早産ではなくて10月に生まれてくれたんですね。

Tussle「そうなんですよ。希龍ちゃんが生まれた日はちょうど僕がゲーミングハウスに戻る予定の日で、出産予定日よりは少しだけ前でした。その日の早朝に陣痛が来たので、一緒に病院へ行って出産にも立ち会うことができました」

恋人として、夫として、父としての姿は?

――希龍くんが生まれてもうすぐ1年ですよね、感想としてはどんな1年でしたか?

愛希「子供を生むことは早い段階で考えてましたけど、いま思えば子育てについて簡単に考えてたなぁとは思います。想像以上に大変だったのはたしかです(笑)。でも元気に育ってくれてるし、とても幸せな毎日を過ごしているので、すごいよかったなと思います」

――私たちはプロゲーマーとしてのTussleさんは知っているんですが、恋人として、夫としてTussleさんがどんな人なのかを知りたいです。

Tussle「……(希龍くんをあやしながら居心地の悪そうな表情)」

愛希「友達だったころはお互いにふざけ合う仲だったんですけど、付きあうようになったら急に私のことを大事にしてくれて『韓国人の彼氏って本当にこういう感じなんだ!(笑)』って。私の友達と会っても『愛希のことこんなに大事にしてくれる人いないよ』って言われるくらい大事にしてくれて、子供が生まれても恋人のように優しく接してくれます」

――父親としてはどうでしょう?

愛希「育児もすごいよく手伝ってくれます。男の人は何もしてくれないっていうママ友もいるんですけど、Tussle選手は家にいるときは家事も手伝ってくれるし、希龍ちゃんとずっと遊んで寝かしつけも一緒にしてくれて、たまに夜中に希龍ちゃんが泣いてもすぐ起きてくれるんですよ」

Tussle「僕としては、それは普通に自分がやるべきことだと思うので、そこまで特別なことではないんですけどね」

――そういえば昨年から、オフシーズンは愛希さんの両親と同居しているんですよね。新しい家族にはすぐ馴染めましたか?

Tussle「いまはもう本当の両親みたいにママ、パパと呼んでます(笑)。夕食はだいたい一緒ですし、お酒をよく一緒に飲んだりディズニーランドに行ったり、仲はすごくいいと思います」

愛希「特に母とはすぐ打ち解けて、父の方は最初は心配してたんですけど、今はこっちが驚くぐらい仲良しですね。父が早く帰ってくる日はTussle選手が嬉しそうなのですぐわかります(笑)」

――ママ、パパは仲良しですねぇ。そういえば2人がなんて呼びあってるか聞いていませんでした。

Tussle「僕はチャギヤ、って呼んでますね」

愛希「韓国で付きあってる相手のことを呼ぶ言葉です。ドラマの字幕だと『ハニー』とか『ダーリン』って訳されてますね」

Tussle「ハニーはちょっとオーバーでしょ!(笑)」

愛希「私はオッパって呼んでます。『お兄さん』っていう意味なんですけど、韓国のカップルの彼女が彼氏をそうやって呼んだりするんですよね」

選手としての考え方にも変化が

――ありがとうございます(笑)。同居もして、Tussleさん的には今後も日本で生活していくというイメージですか?

Tussle「そうですね、そう思ってます。これからも日本でプロをやりたいし、選手を引退する日が来ても日本でゲームの仕事をしたいですね。でもまだ僕の日本語は完璧じゃないし、まだまだ日本で生活するのは難しいことも多いです。

USGの人たちはすごく優しいし新しい家族もできたけど、両親やきょうだいにもなかなか会えないのは寂しいなと思うこともありますね。でも日本で結婚したし、ここでやっていきたいなと思ってます」

――Tussleさんがとても大人に見えます。結婚して、子供が生まれて変わったところはありますか?

Tussle「正直、結婚して子供ができたらプロゲーマーを続けるのは難しいのかなって思ってました。でも1年やってみて、もちろん大変なことはあったし愛希さんにも負担をかけてるけど、でもやっぱりこの仕事を続けたいなって思いました。僕はやっぱりゲームが一番得意だから、来年もプロでやりたいですし。それに、結婚して練習のモチベーションが上がったんですよ」

――へー、それはなんでですか?

Tussle「家族を守らなきゃいけない立場になると、練習も試合もがんばれるんですよね。たとえば試合に負けてチームの雰囲気が沈んでたら、前なら一緒に落ち込んでました。でも、パパのプレッシャーがあるからそこで踏ん張れる。チームが疲れてても『まだ勝てるよ、がんばろう』って励ますようになりました。

なんで僕が仲間のムードまで上げなきゃいけないんだろうって思うこともあるけど、そこで黙ってたらそのまま負けちゃうし、負ければ選手としての価値が下がって家族を守れなくなる。だから、最後まで絶対に諦めなくなりました。それは選手としてプラスになったところだと思います」

――その変化は面白いです。じゃあ他にも結婚するか迷ってる選手がいたら、Tussleさん的には勧めますか?

Tussle「んー、それは悩みますね」
――他の選手には勧めない?
Tussle「やっぱり大変は大変ですよ。選手だけでも厳しい仕事なのに、そこに家族の心配事や子供のことも増えるので。でも本気で自分を応援してくれる人がいたり、子供が育っていくのを見るのは僕の力になっています。だから、大変さを受け止める覚悟がある人は結婚したり子供を持ってもプラスになると思う」

――最後にお互いに、この人と結婚してよかったなって思うところを教えてください。

愛希「付き合ってるときもそうだし、妊娠してつわりがキツかったときも、今も、本当に大切にしてくれてすごく感謝してます。

シーズン中はゲーミングハウスにいるから週に1日くらいしか一緒にいられないけど、たとえ毎日帰ってくるパパだとしても、こんなに私や希龍ちゃんを気にかけて支えてくれる人は本当にいないと思うので、結婚してよかったなと思います。希龍ちゃんがいつか『パパかっこいいな』って思ってくれたら嬉しいですね」

――Tussleさんはどうですか?

Tussle「実は最初は、愛希さんはちょっと子供っぽいなと思ってたんですよね。掃除とかもあんまり得意じゃなくて」

愛希「ここでそれ言うー?(笑)」

Tussle「でも妊娠してから、色んなことがどんどんできるようになって、今じゃ希龍ちゃんを育てるだけでも大変なのに、家事もほとんど1人でしてくれて、本当にすごいなって思います。僕が毎日帰れるなら手伝えるけどそうじゃないし、ツラい時もあったはずなのにがんばってくれて。DFM(DetonatioN FocusMe)とファイナルを戦ったときもUSGのボードを作って応援してくれて、本当に嬉しかったし、いつも支えられています」

Tussle選手とリ・ムニョン青年

 インタビューの終わりがけ、「そういえば、どうして今日はインタビューを受けてくれたんですか?」と聞いたら、愛希さんは少し考えてからこう話してくれた。

「結婚したことや子供がいることを隠すつもりはなかったんですけど、あらたまって発表するタイミングもなかなかつかめなくて、実はずっと悩んでいました。

 あとはやっぱり、プロゲーマーの仕事ってまだよく知られてないから、憶測で色んなことを言われるのが怖かったんですよね。もちろん私もプロゲーマーがどういう生活をしてるかって、結婚するまではよくわかっていませんでしたし。

 私はLJLの会場にも応援に行くので最近は結婚のことに気づく人もいて、『Tussleさんの奥さんですか』って話しかけてもらったこともありました。その時に自分が心配してたような雰囲気は全くなくて、私たちを応援してくれる人もいるんだなと感じました。それで、ちゃんと話そうっていう心の準備ができてきました。Tussle選手は、私の心の準備ができたタイミングでいいよってずっと言ってくれていたので、今なのかなって思いました」

 隣で愛希さんがそう話している間も、インタビューの間も、Tussleさんは希龍くんを何度も抱っこし、サンドイッチを口元に運び、ジュースを飲ませてあげ、食べこぼしを拭いてあげていた。

 結婚について子供についてキャリアについて話を聞くうちに、別人のように見えていた「Tussle選手」と「リ・ムニョン青年」は1人の人間として像を結んでいった。

 それでもやっぱり、ゲームの中で暴れまわる姿からは想像できない表情に、そんな顔するんだなぁと思った。

インタビュアー:八木葱